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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(あ)1134号 決定

本店所在地

大阪市阿倍野区三明町一丁目一四番一九号

伊藤物産株式会社

右代表者代表取締役

堀内良一

本籍

三重県名張市黒田一八〇四番地

住居

和歌山県日高郡美浜町大字三尾二〇八五の二一二

会社役員

堀内良一

昭和八年一月二六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五五年五月一六日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告会社代表者及び被告人本人堀内良一の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤﨑万里 裁判官 団藤重光 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

○昭和五五年(あ)第一一三四号

被告人 伊藤物産株式会社

同 堀内良一

各被告人の上告趣意(昭和五五年八月一二日付)

第一点 原判決は明らかに判決に影響を及ぼす重大な事実の誤認があり、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反する。第一審判決は、罪となるべき事実第一において、昭和四六年四月一日から同四七年三月三一日までの事業年度における事業所得金額が、三七、七五七、五〇〇円である旨を認定し、同第二において昭和四七年四月一日から、同四八年三月三一日までの事業所得金額が、一五〇、三九八、〇八九円である旨、認定しているが、右は事実を誤認するものである。すなわち第一審判決は、資産増減法により、右各年度の被告人会社の事業所得を認定しているが、次の点についての資産減少事由を認定すべきであるのに、これを看過していたものである。

(一) 三木政楠に対する簿外支出。金二、〇〇〇万円

(二) 伊藤開発株式会社に対する簿外損害金。金四、三〇〇万円

(三) 沖縄支社勘定四四、七八八円以外の簿外支出金。金三、〇〇〇万円

(四) 耕栄開発株式会社に対する貸倒損金。金一、五〇〇万円

右の各項目について被告人の供述、証人浦野式の供述により認定されるところであり、且つ被告人の主張は右の事由は、資産を減少させる事由であり、従って各年度における資産増減法により、認定される所得について、負の要素として評価されるべきであるとの主張であるにかかわらず、これを主張自体理由がないと、排斥し結局この事実を認定しなかった第一審判決をそのまま容認した原判決は、重大な事実を、誤認したものという他なく、且つ右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかな重大な事実誤認であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。

第二点 原判決は、量刑が甚しく不当であり、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反する。

第一審判決は、認定した罪となるべき事実を前提に、被告人伊藤物産株式会社に対し、罰金一、五〇〇万円、被告人堀内良一を懲役一〇月(執行猶予三年)に各処する旨、宣告し原判決はこれを容認した。しかし右はいずれも重きに過ぎ、量刑が甚しく不当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。

被告人伊藤物産株式会社は、昭和四九年一〇月、既に、負債総額四五億円をかかえて倒産し、会社所有の不動産のすべてを各債権に対する代物弁済に提供し、純負債を四億五千万円計上している状況にある。そして右負債は被告人堀内良一が重量的に負担している現状にある。石油ショックによる不動産取引業の不振という要因もあって長期的にみれば昭和四六、七年度における会社所得もいわばかりそめの所得にすぎなかったのが、その営業の実態であり、現実に所得として、被告人らに獲得されたものではない、却って四億五、〇〇〇万円もの負債をかかえた被告人らは、経済的に再起不能の状況にあり、加えて一、五〇〇万円もの罰金刑に処せられるとすればその存立は不可能であり、会社を解散することなく債権者に対しいささかなりとも返済をはかり、社会的責務を全うしようと務める被告人堀内をして絶望の渕に突き落すこととなりかねない。また被告人堀内が懲役刑を宣告され、執行猶予の恩典に浴しているとはいえ、猶予期間が三年間に亘ることは、被告人の経済活動を不可能に陥入れるものであり、事実上、その社会経済生活を封殺するものであり、自ら営業活動を展開することによってしか巨額の負債を返済することができず、且つ罰金を納付することのできない被告人については、著しく正義に反する原判決を破棄しなければ不当に過重な量刑と言わざるを得ない。

以上

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